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驚異の名人芸
先日の欧州CL、バルセロナ×コペンハーゲンの試合にて、バルセロナのGKホセ・ピントが凄いことをやってのけた。コペンハーゲンのFWサンティンがラインぎりぎりで裏へ抜け出し、今にもGKと1対1の決定的なピンチを迎えようかという場面で、このGKはなんと主審の笛に似せた音を口で発生させたのだ。相手FWはオフサイドで主審に笛を吹かれたと勘違いし、まんまとプレイを止めてしまった。

やり方は卑劣ながら、アイデアと勝利への執念とその高い技術に感服してしまう。スタンドの客が、持ち込んだ笛を吹き鳴らして試合に関与しようとすることは稀にあるが、ピッチ内でプレイ中の選手がそのような行為に及んだというのは初耳である。しかも道具は使わず、自らの体一つで審判の笛と聞き違えるような音を作り出したのだから驚きだ。お前は江戸家猫八かと言いたくなる。この名人、その気になれば、他にも様々な音を出せるのではないか。スタジアム内の数万人の観客の増幅された声などもいけるかもしれない。もう少し声援が欲しいなと思ったら、たった一人で盛大なチャントを発生させて、会場を盛り上げてしまうのだ。あるいは、敵チーム監督の声を模写し、わけのわからない指示を出したりすることも可能かもしれない。敵選手が効果的なオーバーラップを仕掛けたと見るや、相手監督そっくりの声で「止まれ!」と叫んでみたり、「中盤と最終ライン、全とっかえ」などというイカれた指示を出して、勝手に相手チームのシステムを組み替えたりすることもできそうだ。それでも、どうしてもうまくいかず負け試合になりそうな時には、雷を発生させて試合を中止させてしまうとよいだろう。

故ナンシー関の短編小説に、子守歌代わりに犬や猫やこおろぎの鳴きまねで育てられ、望んでもいないのに高度な声帯模写を身につけてしまった声帯模写芸人の跡取り息子を描いた作品がある。小学校の遠足のバス車内で「ピクニック」(「丘をこえゆこうよ、口笛ふきつつ」で始まる歌)を合唱中、アヒルさんの鳴く部分では子供たちの「ガアガア」という可愛らしい声の中、一人で「ぐぇぐぇ」とやけにリアルな声を出し、ヤギさんの部分では「めへぇ~~~~~」と特殊なビブラートをかけてしまう所為で、「本物のヤギがいる」と車内が騒然となるシーンは実に印象的だ。声帯模写はその技巧に感心させられるものではあるが、技術が高ければ高いほどに、似ていれば似ている程に、おかしみとともに不気味さと何故かどことなくもの悲しさも漂わせる。
結局ピントは、スポーツマンシップに反する行為だとして今後2試合の出場停止処分を受けてしまった。
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by sporting_emoto | 2010-11-02 00:41 | Football